セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • 秋の終わりに

    かえるくんのあたらしいともだち

    マックス・ベルジュイス/絵と文
    清水奈緒子/訳

    24×21cm 25P 定価1,430円(本体1,300円)


    元気いっぱいのかえるくんのシリーズの中で
    珍しく、秋の本です。

    いつもなら、作者が描く額縁の中には、
    背景に、濃い緑の木々が描かれているのですが、
    このお話ではずっと茶色です。
    太陽も低く、鈍い色をしていて、
    鳥たちも急いでどこかへ帰ろうとしています。

    他のお話に比べると、さみしい景色の中で、
    かえるくんは割と元気に登場。
    “夏男”のイメージとは変わって、
    落ち葉を片手に秋を満喫しています。
    日中はまだ、温かいのでしょう。きっと。

    そしてかえるくんは、くさむらの中で
    よこたわっていた“こぐま”に出会います。
    かえるくんにはこぐまのビーズの目から、
    涙がこぼれているのがはっきり見えたのです。
    かえるくんは、つれてかえることにしました。

    ともだちは、“ぬいぐるみだよ”と言いましたが、
    かえるくんが友達として、家族としていっしょに暮らすうちに
    こぐまは心を開いていきます。

    最初にふたりが出会った日のきれいな明るいブルーの空が、
    時間の経過とともに少しずつ変わり、
    だんだん雲が多くなっていきます。
    空の色の移り変わりを見ると、
    お話は秋のあいだのほんの数週間の出来事なのかもしれません。

    みんなとすっかりうちとけたある日
    ひとりで遠くをみつめるこぐまくん。
    見晴らしのよい場所のようです。
    こぐまくんがみつめるその先には
    草木もすっかり茶色になっていて、
    ひんやりと冷たい空気を感じます。
    こぐまくんが目指す“そこ”には次の季節があるようです。

    そしてこぐまくんの旅立ちの日。
    空は灰色で、秋の終わりを感じます。
    仲間たちは、こぐまくんにやがて訪れる冬の厳しい寒さを思い、
    食べ物や飲み物をリュックにいっぱいつめて見送ります。

    暗い、ひとりの部屋で涙を流すかえるくん。
    季節がなくなってしまったようです。

    そして、秋の長い夜も悪くないなと思うような、
    温かい結末が待っています。

    額縁の空の色のような寒色が外の時間、
    茶色をベースとした温色が部屋での時間をあらわしているようで、
    とても秋らしく、このお話にぴったりだと思います。

    日暮れが早くなった分、温かい部屋で過ごす時間が増えました。
    温かい食事。
    寝る前のおとぎ話。
    食卓を片付けて絵を描く…。
    かえるくんと、こぐまくん。
    家族ですごす、しあわせな秋の時間がたっぷりと描かれています。

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