セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • 遠くへ、遠くへ

    かえるくんと たびのねずみ

    マックス・ベルジュイス/絵と文
    清水奈緒子/訳

    24×21cm 25P 定価1,404円(本体1,300円)


    梅雨が明けたらよしっ、とキャンプの準備をする人も多いかと思います。
    普段と違う景色のなかで、目を覚ますことができたら……。
    それが、自然のなかだったら……。
    あらかじめ決められた場所でテントを張れるようになり、
    気軽にキャンプを楽しめるようになりましたが、
    ひとりで、知らない場所で、キャンプするというのは
    心細いのではないでしょうか。

    そしてもし、ひとりで森を歩いている時に、
    ひとりでキャンプをしている人と出会ったら???
    最初はこぶたさんと同じく、そっと離れると思います。
    こぶたさんはかえるくんに、よそからやってきた
    旅のねずみがキャンプをしていると知らせます。

    夏休みの前に、中高生にもぜひ読んでいただきたい本です。

    夜こっそり森のはずれまで出かけたかえるくん。
    満月ではなく、三日月の晩に、
    ランプも持たずに夜道を歩くのは、勇気がいることだったでしょう。
    それでも、ねずみくんのことが気になったのでしょう。
    隠れて見たねずみくんのキャンプの様子は、
    とてもカッコよかったのだと思います。

    知らないねずみに気を許しちゃだめ、どろぼうなのよ、
    とねずみくんの悪口を言い出すこぶたさんたち。
    頭の上には、長い針を出している蜂が飛んでいます。
    かえるくんシリーズの背景では、鳥はよく飛んでいますが、
    蜂は珍しいです。
    白い空に、蜂。
    未知なものに対する不安がぶんぶんと伝わってきます。
    相手をよく知らないうちに、不安のあまり悪いうわさを広げようとする
    こぶたさんとは対照的に、口元が上を向いているので、
    かえるくん、ますます興味を持っているのでしょう。

    木を調達してベンチを作るねずみくん。
    出来上がったベンチにすわる姿は、足をくんだり、
    遠くを見つめたり、頬杖をついたり……大人の仕草が似合います。
    かえるくんは勇気を出してねずみくんに声をかけ、
    ベンチに並んですわり、話をするようになります。

    ねずみくんの話をききながら、一緒に見上げる空は、
    深い青色をしていて、広い世界とつながっているようです。
    ねずみくんの知恵と経験が、みんなのピンチを救い、
    次第に仲間たちとの距離も縮んできます。

    夏の時間はずっと続くかのようでしたが、
    風が冷たくなったり、日が沈む時間だったり
    旅人には変化を敏感に感じられるのでしょう。

    ねずみくんにとっては、旅の風景の一つだったかもしれませんが、
    子ども時間のなかで成長中のかえるくんにとって、
    このひと夏は、大切な時間だったのだと思います。

    貴重な子ども時代の夏休み。
    何が何でも夏休みの間にキャンプをしなくても、
    違う土地で暮らす人や、違う年代の人と時間をともにすることで、
    視野が広がることと思います。
    学校から帰っても、スマホを手放さず
    SNSなどで疲れてしまっている中高生たち。
    同じクラス、同じクラブのなかの友達関係に疲れたとき、
    電源を消して、心の中で違う世界をそっと思う“ひとりキャンプ”も
    夏休みならできるのではないでしょうか。

    アメリカを目指して再び旅に出るねずみくん。
    見送りにきたかえるくんたちとは、森のはずれでお別れです。

    お別れの場面は、いつもの”フレーム”はなく、
    見開きいっぱいに景色が広がります。
    ここで興味ふかいのが、主役のかえるくんたちが、
    奥の方に背景として小さく描かれていること。

    大きな木々を背景に、手を振るねずみくんが手前に大きく描かれ、
    その先にはさらに、広野が淡く描かれています。
    今までいたかえるくんたちの森と、これから行く旅路。
    ここでは、ねずみくんを中心に見た世界が描かれています。

    ここまでは、かえるくんが見たことのある視点で、知っている世界。
    この先は、知らない世界。
    でも、森のはずれに、道が続いていること、
    その先のどこかで、ねずみくんが今も旅していること。

    どちらの景色も共感することによって、読者の世界も広がっていくようです。

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