セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • 耳を澄まして楽しむ音

    お月さまってどんなあじ?

    マイケル・グレイニエツ/絵と文
    いずみちほこ/訳

    30×21cm 26P 定価1,620円(本体1,500円)

     

    春から始まった朝のテレビドラマの終わりに毎回ヒヨコの声がします。
    うちにやってきたインコが”ジジッ”と短く返事をします。
    つい最近まで雛鳥の声だったのに、
    こっちはヒヨコじゃないぞ!と言っているようです。

    最近のドラマは、外の場面には鳥の声が何種類も混ざっているようで、
    そのときもインコは動きを止めて耳を澄ましています。
    推測ですが、このごろは室内で外の景色を再現して
    撮影しているものも多いそうなので、
    より自然に見せようと、後から効果音として加えているのではないでしょうか。

    話に集中していると気にならないのですが、
    音だけ聞いていると、後から加えた自然の音は余計に気になるのかもしれません。
    動物向けの副音声とでもいいましょうか。
    あるいは、モスキート音のように、一部の人(生き物)しか気にならない音といいましょうか。
    密かに楽しんでいるペットも少なくないはずです。
    そこでは場所、季節、時代、時間によって種類の違う声が聞こえているはずです。
    鳥の鳴き声専門の監修のお仕事なども増えるかもしれないですね。

    絵本にも、副音声のようにお話とは別に楽しむ仕組みがあって、
    教室で読み聞かせをすると、ひとりぐらいは隅に描かれたものを見つける子が現れ、
    ひそひそと隣の子を話をしたりします。
    読む方も、ちょっとうなづいて合図したりして
    後から話をきく楽しみが増えます。

    けれども、お月さまってどんなあじ?は、
    副音声が少ない絵本だと思います。
    いろんな動物が登場するので、賑やかかもしれませんが。

    月の光のスポットライトに照らされた場所が舞台になっているせいでしょうか。
    動物たちの背景は、天と地。光と影。そしてお月さまだけ。
    描かれているものの数が少ないのです。

    絵本を思い浮かべながら、時々、マンションの非常階段から月を見ます。
    静かに階段を昇るたびに、月が近くなってきます。
    満月に浴びる光は、やっぱり何か特別な力があるような気がします。
    自分の手のひらも、ふだんよりも白く見えてきます。
    もっと、もっと近くにと、手を伸ばしてみます。
    「お月さまってどんなあじ?」の動物たちのように。
    遠くを走る車の音や、人の声、動物の鳴き声も小さくなっていき、
    自分でも音をたててはいけない気がしてきます。

    月の光のもとにいるので、ほとんどの場面がうす暗いのですが、
    唯一明るい見開きの頁があります。
    それは、みんなが月を食べてしまったあと、眠る場面。

     ---空に浮かぶ月は、かじられて薄くなるのだから、
     今までの光に満ちた頁よりも暗くなるはず?---

    もしかしたら、満足そうに眠る動物たちが白く光っているのでしょうか。
    お腹の底から温まったようです。
    月の光の色だけで見ると、白くて、青くて、冷たい黄色なのに、
    見ているうちに暖かくなる。
    主音声も、副音声もオフの静かな時間があります。

    だからこそ、最後の頁がエコーがかかったようにひびくのでしょうね。

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