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青空の下で開く雪景色
ゆうかんなアイリーン
ウィリアム・スタイグ/作
おがわえつこ/訳27×22cm 32P 定価1,760円(本体1,600円)
熱を出したお針子のお母さんの代わりに、
お母さんが仕上げたドレスを
お屋敷まで届けに行くアイリーン。さらに外は雪が降り始めていて、
灰色の空が広がっています。
風の音が強く聞こえてきそうです。
空は味方してくれていないようです。
表紙では、雪が降りしきるなか、主人公のアイリーンが
強く眼を閉じて、進んでいる場面が描かれています。
せっかくの表紙ですが、眼を閉じていないといけない状況です。このあと雪のなか、アイリーンが歩く場面がいくつも続きます。
雪が舞い散り、地面に積もり、空の色が変化する様子は
落ち着いた色で丁寧に描かれています。今この絵本を開くのは、季節外れなのでしょうね。
けれども、以前のように暮らすことが難しい
せっかくの青空の下、好きなところに行けない。
遠くにいる人に、会いに行けない。
そんな時にもおすすめしたい絵本なのです。モノトーンの世界のなかで小さな存在のアイリーン。
お母さんが作ってくれた赤い手袋、帽子、マフラーに守られながら、
肌の色は暖色で、はっきりとした表情で、
気持ちが変化していく様子が身体全体から伝わります。。(鼻を通り抜ける冷たい雪のにおい、
長靴で雪を踏みながら前に進む音、
頬に受ける凍りつくような空気、
冷えていく耳、指先、
→じわじわと雪の中を歩いたことを思い出します)目を閉じて、大きな箱を風よけにしながら
雪の中を一歩一歩前を進みます。
(周りに大きな木が!! よい子はどうか真似しないでくださいね‼
そんなこといったら、お母さんの立場で見ると
最初から心配ですね…… )新しくスタートした生活は、
出発にふさわしい、すがすがしい朝、ではなくて
あたり前だった事ができない状況が続いていて、
自分で納得できるような準備もできておらず、
……けれども、ひとつ上の先輩だって、実は
経験していないことが続いていて、迷っていて……
みんなそれぞれ、困った状況を抱えている。
こうした状況は自分のせいではない(そうです!)、
と言い聞かせながら、あまり先が見えないなかで
スタートしなければならなかったとしたら、
アイリーンのように、声を出せたら
自分の中から力が出るかもしれません。
意外と近くで、“そんなの やだ!”と叫んでいて
もがいている仲間が見つかるかもしれません。
声が出せない環境ならば、
立ち止まって深呼吸してから
気持ちを言葉にあらわしてみてください。
自分の中の次の言葉が浮かんでくるかもしれません。雪のなかでアイリーンが箱をうまく使ったように、
落ち着いて見まわすと身近にヒントがあります。
絵本は風よけになったり、そりにするのは難しいですが、
遠くに広がる世界を共感することができます。『暮しの手帖』2020-21 12-1月号にて、『ゆうかんなアイリーン』翻訳者のおがわえつこ(小川悦子・弊社前社長)のインタビュー記事が掲載されました。 インタビュー記事と北川史織編集長の「編集後記」で、長らく品切れ中だった『ゆうかんなアイリーン』を紹介していただきました。 記事の反響と、品切れ中リクエストをくださった読者の皆様、書店様皆様方に応援していただき、この度重版することができました。ありがとうございました。