セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • 青空の下で開く雪景色

    ゆうかんなアイリーン

    ウィリアム・スタイグ/作
    おがわえつこ/訳

    27×22cm 32P 定価1,760円(本体1,600円)


    熱を出したお針子のお母さんの代わりに、
    お母さんが仕上げたドレスを
    お屋敷まで届けに行くアイリーン。

    さらに外は雪が降り始めていて、
    灰色の空が広がっています。
    風の音が強く聞こえてきそうです。
    空は味方してくれていないようです。
    表紙では、雪が降りしきるなか、主人公のアイリーンが
    強く眼を閉じて、進んでいる場面が描かれています。
    せっかくの表紙ですが、眼を閉じていないといけない状況です。

    このあと雪のなか、アイリーンが歩く場面がいくつも続きます。
    雪が舞い散り、地面に積もり、空の色が変化する様子は
    落ち着いた色で丁寧に描かれています。

    今この絵本を開くのは、季節外れなのでしょうね。
    けれども、以前のように暮らすことが難しい
    せっかくの青空の下、好きなところに行けない。
    遠くにいる人に、会いに行けない。
    そんな時にもおすすめしたい絵本なのです。

    モノトーンの世界のなかで小さな存在のアイリーン。
    お母さんが作ってくれた赤い手袋、帽子、マフラーに守られながら、
    肌の色は暖色で、はっきりとした表情で、
    気持ちが変化していく様子が身体全体から伝わります。。

    (鼻を通り抜ける冷たい雪のにおい、
     長靴で雪を踏みながら前に進む音、
     頬に受ける凍りつくような空気、
     冷えていく耳、指先、
     →じわじわと雪の中を歩いたことを思い出します)

    目を閉じて、大きな箱を風よけにしながら
    雪の中を一歩一歩前を進みます。
    (周りに大きな木が!! よい子はどうか真似しないでくださいね‼
     そんなこといったら、お母さんの立場で見ると
     最初から心配ですね…… )

    新しくスタートした生活は、
    出発にふさわしい、すがすがしい朝、ではなくて
    あたり前だった事ができない状況が続いていて、
    自分で納得できるような準備もできておらず、
    ……けれども、ひとつ上の先輩だって、実は
     経験していないことが続いていて、迷っていて……
    みんなそれぞれ、困った状況を抱えている。
    こうした状況は自分のせいではない(そうです!)、
    と言い聞かせながら、

    あまり先が見えないなかで
    スタートしなければならなかったとしたら、
    アイリーンのように、声を出せたら
    自分の中から力が出るかもしれません。
    意外と近くで、“そんなの やだ!”と叫んでいて
    もがいている仲間が見つかるかもしれません。
    声が出せない環境ならば、
    立ち止まって深呼吸してから
    気持ちを言葉にあらわしてみてください。
    自分の中の次の言葉が浮かんでくるかもしれません。

    雪のなかでアイリーンが箱をうまく使ったように、
    落ち着いて見まわすと身近にヒントがあります。
    絵本は風よけになったり、そりにするのは難しいですが、
    遠くに広がる世界を共感することができます。

    『暮しの手帖』2020-21 12-1月号にて、『ゆうかんなアイリーン』翻訳者のおがわえつこ(小川悦子・弊社前社長)のインタビュー記事が掲載されました。 インタビュー記事と北川史織編集長の「編集後記」で、長らく品切れ中だった『ゆうかんなアイリーン』を紹介していただきました。 記事の反響と、品切れ中リクエストをくださった読者の皆様、書店様皆様方に応援していただき、この度重版することができました。ありがとうございました。

    前のコラム 次のコラム