セーラー出版は2013年7月1日をもちまして、社名を「らんか社」に変更しました。

  • 3見開き分の旅
    〜強い日差しを共感しながら…

    かさの女王さま

    シリン・イム・ブリッジズ/作
    ユ・テウン/絵
    松井るり子/訳

    27×26cm 33P
    定価1,650円(本体1,500円)


    『日傘だね…』表紙を見せたとたん、そっとつぶやいたのは目の前に座っていた男子でした。意外だったけど、そのぶんとても嬉しかったので、大きくうなずきながら頁を開きました。

    猛暑日が続いていたこの日、読み聞かせの時間に学校に持っていった絵本は『かさの女王さま』。この時期なら、強い日差しを共感してもらえるだろうと選んだ絵本でした。

    イラストレーターのユ・テウンさんが選んだ用紙は、白ではなく、少し黄色みのあるものでした。着色をしていない地の部分がとてもまぶしく、紫外線たっぷりの日差しを浴びているようです。日傘がつくる陰は鉛筆で濃く、短く描かれていて、涼しげ。色数をおさえたシンプルな表現が日差しのコントラストをいっそう強調しています。そこに主人公のヌットが描いた象の絵柄の傘だけ、ターコイズ・ブルーが使われていて、とても鮮やかに映えるのです。

    扉をめくった見開きには、献辞のみで、文章はまだありません。画面手前には大きな川(湖?)。小舟をこぐ音が聞こえてきました。遠くには山が連なっていて、山の中腹にちいさな村が見えます。舟はそちらへ向かっているのでしょうか。

    続く見開きで、小舟は村はずれに流れる川に浮かんでいます。村人たちの生活の音がだんだんと聞こえてきます(そういえばちいさな舟は上流に向かって逆行しているはずで、涼しい顔をして川を遡る…というのは実際にはなかなかあり得ない設定なのですが、ここは素直にお話の案内人に任せましょう)。

    そして、次の見開きでいよいよ、自慢の傘を並べる村人たちのなかに、主人公の小さな女の子を見つけ出すことができるのです。

    読者のわたしたちも、3見開きを通して、いつの間にかどこか遠い遠い国の強い日差しのなかにたっていることに気づくことでしょう。さあ、日傘を手に入れないと…。

    汗をかきながら労働していたヌット。本を閉じると子供たちも汗。読んでいた自分も汗。そこに、やわらかい風がふきぬけていくのを感じながら、お話の余韻を楽しみました。 深呼吸する子供たちの表情は、とても誇らしげでした。

    文章を書いたシリン・イム・ブリッジスさんはこの絵本より先に"Ruby's Wish"(日本語版未発表)という絵本を発表しています。いつも赤い服を着ていて、他の男の子たちのように勉強をしたい…という夢を叶える元気いっぱいの中国の少女ルビーが主人公で、作者の祖母がモデルのようです。ルビーを見守る祖父のやさしいまなざしは、ヌットの話に耳を傾けていた王様に似ています。

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